カルメン/プロスペル・メリメ
- 作者: プロスペル・メリメ,杉捷夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1960/12/05
- メディア: 文庫
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読んだことのない古典の一冊。読んだことはないけれど、どんな話かは知っている……と書きかけて、よく知らないことに気付いた。スペインで、ホセという男が、カルメンという女性に狂い、ついに彼女を殺害してしまうこと以外はなにも知らない。ホセとカルメンが、どういった境遇の人間だったかも。
ちょっと調べてみて、さらに驚いたのは、作者がスペイン人ではなかったことである。知っている人は皆知っているかもしれないが、メリメはフランス人の作家だ。フラン人の作家で、歴史家で、考古学者で、官吏だった。多くの外国語を操ることが出来、プーシキンなどのロシア文学を初めてフランスに紹介している。そしてナポレオン三世(!)の側近でもあった(驚くほど多彩な才能を持つ人間だ)
実際『カルメン』は読む前に抱いていたほど、情熱的で華やかな印象ではない。おそらく、そちらは映画や舞台の印象から来ているのだろう。小説は、激情的ではあっても、沈痛なトーンで彩られている。さらに、物語はホセが、メリメを思わせる考古学者に自分の経験を語るという形を取っている。
バスク人の真面目な軍人ホセは、女工であったロマの女性カルメンと知り合い、すっかり魅了された。カルメンの傍らにいるため、軍隊から脱走し、密輸や山賊行為にも手を染め、すっかり身を落としていく。しかし、浮気なカルメンの心を掴んでおくことはできない。カルメンの望みはただ一つ、気ままに放浪し、自分の心にだけ従い生きることだった。一人の男とどこかに定住して、富を築くことなど思いもよらない。やがて思い余ったホセは、カルメンを手にかける。
イギリスの悪女たる『虚栄の市』のベッキーや、日本の悪女たる『痴人の愛』のナオミと比較して、面白い。このカルメン、とにかく気が強く、野性味があって、情熱的で、凶暴だ。女同士の喧嘩となっても、嫌味の応酬など、上品で陰湿なことはせず、すぐ拳が飛ぶ。そして定住や富の蓄積を望まない。こういった女性像が、当時のフランス人の夢想する、スペイン悪女だったのだろう。
痛ましさと激情が、ともに感じられる恋物語。
プロスペル・メリメのWikipediaはこちら
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%A1