FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

はやく名探偵になりたい/東川篤哉

はやく名探偵になりたい

はやく名探偵になりたい

 一冊が大ヒットすると、他の著作まで、こんなに表紙がラノべ風になるのか、と思わずびっくりしてしまった。しかし、内容はしっかりおっさん臭い、小粒ながらぴりりとした東川篤哉だ。名(迷?)探偵、鵜飼と助手の青年、戸村を主役に据えた「烏賊川市」シリーズの短編集である。
 財産狙いで叔父を殺した若い甥。密室を作り、自殺に見せかけ、「これで成功!」というところに、鵜飼と名乗るうさんくさい男が訪ねてくる。甥はなんとか完全犯罪をもくろもうとするが……脱力感かつ意外性あるオチの「藤枝邸の完全なる密室」。
 探偵たちが見張る前で、トラックの荷物に隠れ、マンションを脱出しようとする資産家の若い妻の愛人。しかし、トラックの荷物を開けたところ、当の愛人は死体へと変わっていた。荷物に入る前は、確かに生きていたのに。秀逸な謎解きで、これが一番の傑作「時速四十キロの密室」。
 七つのビールケースが盗まれた。誰が、なんの目的で。ビールケースを探しているうちに、浮かんでくる意外な真相とは「七つのビールケースの問題」。
 老舗の和菓子屋の令嬢に夜の散歩に誘い出され、鼻の下を伸ばしている戸村。しかし、彼らの前で令嬢の車椅子の祖父が、海へと投げ込まれた。車椅子を押している男はよく見えなかったのだが、一体一家のうちの誰なのか。「雀の森の異常な夜」。
 そしてラスト、一つだけ毛色が違う、ほのぼの系ミステリ「宝石泥棒と母の悲しみ」。
 本格ミステリが好きで、親父ギャグに耐えられるならば、誰にでも勧められる一冊。