FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

たったひとつの願い/キンバリー・キリオン

たったひとつの願い (扶桑社ロマンス)

たったひとつの願い (扶桑社ロマンス)

 実に珍しい設定の物語である。なんとヒロインの父親は、ロンドン塔の死刑執行人で、日常的に囚人に死刑と拷問とを繰り返している。ヒロイン、リズべズは薬物等の知識を持ち、人間の治療法には詳しいが、やはりロンドン塔で幼い頃から暮らし、おぞましい場面を散々見てきた。これまで読んだヒストリカルロマンスの中でも、群を抜いてユニークな生まれのヒロインで、この設定だけで勝利は半分約束されたと言える。
 十五世紀、イングランドを治めているのはエドワード四世。リズべズは、父親の上司にして、彼ら一家の敵に当たるホリスター卿と、国王の縁者バッキンガム公がエドワード四世の暗殺計画を立てているという証拠を握り、父親のもとへと急いでいた。しかしリズベスが見たのは、父親が拷問していたスコットランド人戦士ブロックに反撃され、倒される姿だった。
 奇妙な成り行きで二人はロンドン塔を脱出する。目指すはヨークシャーだ。そこにはエドワード四世の弟、グロスター公リチャード(のちのリチャード三世)がいる。きっと力になってくれるに違いない。しかしスコットランド人のブロックは、かつてリチャードがスコットランドに行った行為から、彼を敵と見做していた。
 立場や考えの違いはありながらも、二人は次第に熱い恋に落ちていく。
 薔薇戦争の終わり際という時代設定もなかなか珍しいし、前述の通りヒロインの境遇というのはさらに珍しい。官能場面は多く濃厚で、その上拷問場面も多い……冗談抜きで、ヒロインが拷問に幾度か遭うため、残酷なシーンが苦手な人は避けて通った方が無難である。
 エロティック&グロテスク&スピーディーで、新鮮な作品だった。傑作。