シャンハイ・ムーン/S・J・ローザン
- 作者: S・J・ローザン,直良和美
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2011/09/29
- メディア: 文庫
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作者S・J・ローザンは現在脂が乗り切っている。アメリカン・フットボールが盛んで、優れたアメフト部員ならば些細な悪事をも見逃されてしまう、閉鎖的な町での、衝撃的な事件を描いた傑作『冬そして夜』に続き、今度は過去の上海と、現在のニューヨークのチャイナタウンが響き合う傑作『シャンハイ・ムーン』を著した。まさか、シリーズもので立て続けにこれほどのレベルの作品を読むことができるとは思わなかったので、驚きである。
<リディア・チン&ビル・スミスシリーズ>、第九作目。このシリーズ、リディアとビルが交互に語り手を務めているが、『冬そして夜』はビルが語り手だったのに対し、『シャンハイ・ムーン』はリディアが語り手である。
ナチスが力を握った、動乱のヨーロッパ。生まれ育ったオーストリアから、少女ロザリー・ギルダーは両親と離れ離れになり、命からがら弟ポールと上海に逃げ出した。彼女は、故国にいる母親に慕情を込めて手紙を書き続ける。彼女は亡命ののち、中国人貴族の青年チェン・カイロンと知り合い、恋に落ちた。そしてカイロンの妹、メイリンの家庭教師も務めることとなった。
やがてロザリーとカイロンは結婚し、ロザリーが持ち出した宝石と、チェン家の家宝が組み合わさった≪シャンハイ・ムーン≫という伝説的な宝石細工ができあがった。
現代、この宝石細工はロザリーとカイロンの子孫の手元にはない。中国人に役人によって盗まれ、どうやらそれはニューヨークのチャイナタウンで売りさばかれる成り行きになりそうだった。宝石探しの依頼を受けたリディアは、『冬そして夜』の最後で起きた痛ましい事件以来、連絡を絶ったビルを案じつつ、調査に乗り出す。同時にリディアは手紙から察せられるロザリーの人となりに好感を持ち、その死の謎に思いを馳せる。
リディアの宝石探しに加え、上海に亡命したロザリーとポールとが辿った運命、そして母国に残った姉弟の両親の運命、そしてカイロンとメイリンが辿った運命、幾つものエピソードが絡み合っているのだが、どれも重厚なのに読みやすい。
現在に起きた殺人事件の謎、ロザリーの死の謎、そして登場人物と同じぐらいの存在感を示す≪シャンハイ・ムーン≫の謎など、どれもが良かった。
ビルが語り手の『冬そして夜』、リディアが語り手の『シャンハイ・ムーン』、どちらも甲乙つけがたい傑作である。
- 作者: S.J.ローザン,S.J. Rozan,直良和美
- 出版社/メーカー: 東京創元社
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