夜の真義を/マイケル・コックス
- 作者: マイケル・コックス,越前 敏弥
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2011/03/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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これは……読む前の期待値が高過ぎたかもしれない。
ヴィクトリア朝の英国を舞台に、悪漢が繰り広げるという復讐小説というので大変楽しみにしていたのだが……文章はとても美しいし、物語もそれなりに面白いが、登場人物達に魅力が欠ける。
復讐ものの創作物の主人公には、明敏な頭脳と抜きん出た行動力が必要だと思うのだが、この『夜の真偽を』の主人公、エドワードにはもう少し証拠を集めて、足元を固めて、よく考えてから動けよと言いたくなる。宿敵の青年も、すごく典型的な「なり上がるためなら手段は選ばないぜ」的悪党だし。(この類型的なキャラクター造形は、わざとヴィクトリア文学らしくするためのものなんだろうか?)
もう一人、上の二人に加えて、もう一人邪悪な人物が出てくるのだが、この人は「黒いかも」と考えていたので、正体がばれたときの驚きはなかったが、最後の最後で出てくるあれには仰天した。もしかして、こちらも狙っていたのか。
閨秀作家の子として育ち、長じて名門イートン校に入学を許されたエドワード。彼が転落の人生を歩むこととなったのは、友人だと考えていたフィーバスに陥れられたためだ。ロンドンの法律事務所に勤務し、雇い主のために汚れ仕事ばかりするようになった彼は、フィーバスが男爵であるタンザー卿ジュリアス・デュポートに目をかけられ、詩人として名声を築いていくのを歯ぎしりしながら見ていた。男爵には後継者はいない。その候補者達はなぜか次々と生命を落とした。このままではフィーバスが男爵位を継いでしまう。
それは許せない。
なぜなら、彼、エドワードこそが真のデュポート家の嗣子だというのだから。あまつさえ、フィーバスは男爵の遠縁にあたる稀代の美女エミリーと婚姻を遂げようとしている。
復讐のため、自分の真の地位を取り戻すため、エドワードは行動に出た。なんらの罪なき人間を手にかけてまで。
なんだかけなすことようなことばかり書いてしまったが、そこそこ面白かった。文章のきれいさや、厚さを感じさせない読みやすさがあることは保証したい。