ジークフリートの剣/深水黎一郎
- 作者: 深水黎一郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/09/30
- メディア: 単行本
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傑作。これまでのあの探偵のシリーズものの中で、一番よくできているのではないだろうか。実は、中途まで世界的名声を持つ声楽家の男性が主人公の、ミステリ性のない芸術家の物語として話は進み、「今回はシリーズもののミステリじゃない、普通の小説なんだな」などと考えていたら、意外なところから「謎と解決」が立ち上がってくる。タイトル、『ジークフリードの剣』の本当の意味が分かるクライマックスと、そこから続くラストシーンは寒気がするほどうまい。
高名なテノール歌手藤枝和行。彼は婚約者の有希子の希望でうさんくさい占い師の老婆のもとへと行くが、不吉な予言を受ける。やがて和行はドイツのバイロイト音楽祭における『ニーベルングの指輪』のジークフリート役という大役に抜擢される。歓喜も束の間、有希子は列車の事故で大勢の人ともに亡くなる。和行はひたすら献身的で母性的であった婚約者の死を嘆き、彼女の遺骨をもってドイツへと飛ぶ。だが彼はドイツで知り合った、美貌で聡明な女医に心奪われ、有希子のことを忘れていく。
芸術小説にして優れたミステリ。もう一度繰り返す。傑作。