FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

キングの死/ジョン・ハート

キングの死 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

キングの死 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 『ラスト・チャイルド』で瞠目したジョン・ハートのデビュー作。
 主人公が鬱陶しい。『川は静かに流れ』でも主人公に苛々させられたが、この作品の主人公、ワークことジャクソン・ワークマン・ピケンズにはさらに苛々とさせられる。 
 かつての恋人ヴァネッサに対するその態度はなんだ。
 妹ジーンの同性の恋人アレックスに対するその態度はなんだ。
 今それほど懊悩するのなら、父親が生きてるときにきっちり対決しておけ。
 と、まあ主人公にはつっこみたい箇所だらけだが、この本そのものは面白かった。しかも読み進めれば読み進めるほど面白くなり、大団円を迎えると、主人公へと苛立ちもちょっと減る。ほんの少しだけだが。
 弁護士のワークは、辣腕弁護士である父親エズラに人生を支配されて暮らしてきた。エズラばかりではない、ワークの妹のジーンもだ。エズラは兄妹の母親が死んだのち、姿を消した。一年以上の時間が経過したのち、エズラは他殺死体で発見される。
 ワークは哀しみを感じなかったが、不安は覚えた。それは情緒不安定なジーンが、エズラを手にかけたのではないかと考えたからだ。ワークは妹を守り通そうと試みる。しかし警察は、ワーク本人をエズラ殺しの容疑者として疑いをかける。本当にジーンが父を殺したのか、そして警察はワークを逮捕するのか。
 『ラスト・チャイルド』でも思ったが、この著者は「知ってみれば単純な事実」を複雑そうに書き、読者を惑わせるのが凄くうまい。
 エピローグを読み、各登場人物のその後の幸福を素直に祈る。

川は静かに流れ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

川は静かに流れ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ラスト・チャイルド (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1836)

ラスト・チャイルド (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1836)