FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

桜の園 神代教授の日常と謎/篠田真由美

桜の園 神代教授の日常と謎

桜の園 神代教授の日常と謎

 「建築探偵桜井京介」シリーズの脇役、神代宗が重要な役回りを務めるシリーズ第二作。第一作『風信子の家』は未読なので、このシリーズを読むのは初めてということになる(シリーズのすべての巻のタイトルに花の名前を入れる趣向なのだろうか)
 「建築探偵桜井京介」シリーズや、ゴシック・ロマンスたる「さいはての館」シリーズからも察することのできるよう、篠田真由美は降り積もるような、長い長いときの間で、変わるものや変わらぬものを描かせてうまい。
 桜館。戦前の実業家、桜道楽でもあった目黒高陽が建てさせた、桜に囲まれた西洋館。この館では、目黒の本妻の娘や妾の娘が三姉妹として暮らしていた。三姉妹が老い、老人向けの施設に移るに当たり、最後の花の宴が行われることとなった。三姉妹の一人と血が繋がる同僚、大島とともに、神代は、この桜館に足を向ける。大島は、この宴に参加するのは四十年以来だった。少年の日の記憶が、すべてはっきりとしているわけではない。だが彼はこの館が、そして三人の女が、なぜかひどく恐ろしかった。
 豪奢絢爛たる舞台に、おそろしく個性の強い女性達の登場人物を揃えた、美しいドラマ。ヒロインの一人、久江が大女優だったという設定ゆえか、ミステリ小説ではあるものの、華やかな舞台劇を見ているような印象がある。
 表題作「桜の園」と、神代の母にまつわる「花の形見に」が収録された一作。