FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

第9地区/ニール・ブロムカンプ監督

第9地区 Blu-ray&DVDセット(初回限定生産)

第9地区 Blu-ray&DVDセット(初回限定生産)

 秀逸で特異な設定と、王道のストーリーで見るものを魅了する映画。
 敵対的でもなければ、友好的でもない、他に選択肢がないから地球にやってきたエイリアンという設定、そして「エイリアンの武器はエイリアンにしか使えない」という設定が効いている。
 南アフリカ共和国ヨハネスブルクの上空に現れた宇宙船。彼らは、物語によくあるように地球を侵略しにきたわけではなかった。友好的なファースト・コンタクトを取りたいわけでもなかった。母船が故障してしまったため、仕方なく地球に降り立ったのだ。
 以後二十八年、彼らは隔離地区である「第9地区」で難民として地球人と共存した。だが人類のほとんど、特に付近の住民は彼らのことをお荷物と感じ、その醜い外見から「エビ」と呼んで蔑み、差別した……あるものたちは、秘密裏にひどい虐待を加えていた。
 「第9地区」は犯罪が横行するスラムと化していた。超国家機関MNUは、彼らを都市からさらに離れた、彼ら専用の住居地区「第10地区」に移すことに決めた。MNUの重役の娘婿ヴィカスは、第10地区がほとんど強制収容所に過ぎないことを知っていても、現場責任者として抜擢したことを大喜びしながら、エイリアン立ち退き作業に喜々として手をつけた。作業の中途、あるエイリアンの小屋で浴びた液体が、自分の身体にある変化をもたらすとも知らずに。
 クリストファー(と呼んでいいのか)が気の毒でたまらない。「特別な力」を手に入れてもヒーローにはなりきらず、言い訳や中途半端な行動が目立つ主人公にどれほど苛々とさせられたことか。しかしこの英雄にはなりきらない、なりきれない主人公の人物造形のおかげで、彼の最後の選択や、完璧なハッピーエンドとは到底言いかねるあのラストシーンに一抹の清々しさが漂っている。余談ながら、ロボットアニメのような装甲をまとったにも関わらず、己より弱いはずの敵から逃げ出す場面は変にリアルだった。
 悪い意味で現実的な主人公と、MNUの鬼畜ぶりには参る。
 見ていると、あっという間に時間が流れていく大型エンターテイメント。
 傑作。