FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

黒い犬/スティーヴン・ブース

黒い犬 (創元推理文庫)

黒い犬 (創元推理文庫)

 警察小説が苦手な当方にも面白かった、英国の警察小説。訳者によるあとがきで、レジナルドヒルの本書に対する讃辞が紹介されているが、本書にはどこかレジナルドヒル自身を連想させられる雰囲気がある。
 ダービーシャー北西部、シェフィールドとマンチェスターの間に位置する観光地、ピーク地方。名門出身の十五歳の少女ローラ・ヴァーノンが失踪し、ハリー・ディキンスンという老人が散歩をしていた犬が彼女の靴を見つけた。そののち、ローラの他殺死体が見つかった。
 表向き取り澄ましたヴァーノン家の内実は腐敗していた。睦まじい庶民の一家と見えたディキンスン家にも秘密はあった。ハリーは家族を愛していたが、旧友二人とは家族よりもさらに強い絆で結ばれていた。
 この単純そうで複雑な事件に挑むのは、コンビを組む相棒でもあり、同時に昇進を狙うライバル同士でもある男女の若い刑事、ベン・クーパーとダイアン・フライ。ベンは偉大な刑事だった父の面影に悩まされ(住民に聞き込みに行くと、なにかと父の名前を出される)、精神的な病を負った母に悩まされている。強く生きているよう見えるダイアンも、凄惨な過去を負っていた。
 人間関係が限定された小さな村や堕落した富裕の人々など設定自体はありふれたものだが、ヒルの言葉にあるよう、暗い迫力に満ちており、それが強い個性となって、設定の似た他の小説と一線を隠している。陰惨な雰囲気も強いが、主人公達の若々しい活躍ぶりが精涼剤となっている。