見知らぬ者の墓/マーガレット・ミラー
- 作者: マーガレット・ミラー,榊優子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1988/05
- メディア: 文庫
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十年以上も前に読んだサスペンスである。どんな話だったか、すっかり忘れていたから、楽しめた(忘れてばっかり)。
若い人妻デイジーが見た不吉な夢。それは自分の名前が記された墓碑銘の夢だった。没年月日は四年前のある日。デイジーは、その日なにがあったか、自分がなにをしたのかを、はっきりと覚えていない。私立探偵ピニャータの助けを借りつつ、この日について調べ出す。
なにかに向けて動いていたのは、デイジーばかりではなかった。人間として魅力的ではではあるものの、生活力のないデイジーの父スタンリー。妻アダと別れたのちも、デイジーを可愛がり、連絡を取っていた彼だが、ある日誰にも(読者を含めて)目的を秘めたまま、ファニータという女性に接近しようとしていた。ファニータ。若いのに大勢の子供がいる。さして子供を可愛がらないのにこれほど子沢山となったのは、妊娠を武器に司法の裁きをしばしば逃れていたからだ。生まれながらの犯罪者の気質持ち主ではないか、とファニータについては語るものもいる。
デイジーとピニャータの調査、スタンリーのファニータの謎めいた接近、この二つをストーリー展開の軸としつつ、デイジーの夫や母親、夫の顧問弁護士やファニータの母親などの思惑が絡み、かつての悲劇の真相が明らかになる。
正直言って、デイジーの夢とその「解決」はいま一つながら、読ませてしまうのはマーガレット・ミラーの小説家としての地力ゆえか。またあまり書くとネタバレになってしまうので気をつけたいのだが、章ごとにエピグラフにように添えられている短文、あれがどういった意味を持っているのかが、最後の最後で分かる構成が凄い。
とっつきやすい作家でもないし、その中でもまたとっつきやすい作品ではないのだが、マーガレット・ミラーの作品に痺れている人はぜひ。