FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

粘膜蜥蜴/飴村行

粘膜蜥蜴 (角川ホラー文庫)

粘膜蜥蜴 (角川ホラー文庫)

 笑っていいのか、泣いていいのか、怒ったらいいのか分からない、なんとも言えぬ感情の選択に困る小説である。まともな人格の所有者の率が極端に低いので、読む人間は必ずや限られてくることだろう。とにかく読んでいる間に何度、本に向かって「おめーはなにを考えているんだ」と言いたくなることか。
 軍国主義が支配する日本。町で唯一の病院の院長であり、軍部にさえ顔が効くほど権勢を持つ月ノ森家に、雪麻呂という、サディスティックで極度に自己中心的な少年がいた(この子だけじゃないけどさ……)。彼は級友にさえ王様然として振る舞い、無慈悲きわまりない暴虐をふるう。この雪麻呂の下男に富蔵というものがいる。彼は人間ではなく、頭部が蜥蜴の爬虫人だ。ヘルビノという種の生き物で、このヘルビノは日本軍が支配したナムールという東南アジアの国の密林に住んでいるが、奴隷として日本国内にも輸出されている。
 一方、雪麻呂に散々グロテスクな目に遭わされている級友、真樹夫には、美樹夫という年の離れた兄がいる。陸軍の少尉たる彼は、ナムールに出征しており、ある日、間宮といううさんくさい実業家の護衛を依頼される。二人の部下とともに旅立つ彼だが、密林で抗日ゲリラや巨大ゴキブリ、肉食ミミズ、はてはヘルビノも絡んだとてつもない危難に襲われるのだ。
 ホラー小説で、秘境を巡る冒険小説で、そして恋愛小説で、家族小説である。気は触れているが。
 ネタバレに抵触するため詳しくは書けないが、最後で唐突に明かされるある事実。あの事実を踏まえて考えると、あの「応援」のとき、一体なにを考えてやっていたんだろうと思う。
 読了後ぽかーんとしたい方にお勧めしたい。
 ぽかーん。