FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

愛とためらいの舞踏会/シェリル・ホルト

愛とためらいの舞踏会 (扶桑社ロマンス)

愛とためらいの舞踏会 (扶桑社ロマンス)

 うん、大満足。
 ヒストリカルロマンスものの定番に「身分違いの恋」(おおもと男性が貴族、女性が平民)があるのだが、ロマンス小説の場合、多少恋路を邪魔するものが現れたとしても、大抵その困難は実にあっさりと解決される。
 しかし、この七百ページ近いロマンス小説『愛とためらいの舞踏会』は違う。
 ヒーローのアダムは侯爵。周囲の貴族女性からの求愛攻撃にうんざりしながらも、自分が同じ階級の女性でなければ結婚できないことを分かっている。そして貴族たる自分達兄弟やその母親よりも、愛人や愛人との間に生まれた子供達をずっと愛していた父を憎んでいる。
 ヒロインのマギーは某貴族と愛人との間に生まれた庶子。実の父親には見捨てられおり、母を失い、物語の序盤で食い詰め、母と同じく「貴族の愛人」という職を探す羽目になる。
 ええと、普通のヒストリカルロマンスならばちょっとした葛藤ののち、「身分なんてどうでもいいさ。さあ結婚しよう」という世界に突入するのだが、この物語ではそういった展開にはならず、アダムとマギーは惹かれ合い、結ばれてからも、お互いの身分の違いや複雑な境遇(公爵令嬢たるマギーの異母妹がアダムを狙っているのだ)をなかなか乗り越えることができず、幸福な結末を迎えるまでに長い道程が必要となるのである。しかもこの道程が面白い。
 重厚でしかも読み応えがある。ここしばらくの間に読んだヒストリカルロマンスの中でも屈指の出来栄え。
 余談ながら、作者シェリル・ホルトは「エロティック・ロマンスの女王」と呼ばれているそうだ。むろん官能的なシーンが多いことからそう呼ばれているのだが、この『愛とためらいの舞踏会』は比較的初期の作品ゆえ、そういった場面はやや控えめになっているという……それでも結構な場面数だと思うのだが。