FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

楽園は嵐の果てに/メアリー・ジョー・パトニー

楽園は嵐の果てに (ラベンダーブックス)

楽園は嵐の果てに (ラベンダーブックス)

 『堕天使たち』というシリーズの一作目。この本を手に取ったのは、同じ作者の『放蕩者に魅せられて』が大変面白かったからである。何度も名前を出して申し訳ないが、リサ・クレイパス『もう一度あなたを』と並び、別格である。
 当方十九世紀ウェールズアバーティア伯爵ニコラスは、ジプシーの血を引くことから偏見を抱かれ、自己の祖父と妻を死に追いやったのはではないかという疑惑をかけられていた。敬虔なキリスト教徒で、オールドミスの女性教師クレアは、領地の炭鉱で働く人々の窮状を訴えるべくニコラスの元を訪れるが、ニコラスは驚くべき提案をする。自分の屋敷で三か月生活をともにし、これまでのクレアの清らかな評判を台無しにしろ、と。
 「また暗い過去のある美男貴族と、お堅い平民娘の恋愛か。ワンパターンだな」
 などと思いながら最初は読んでいたのだが、ロマンス小説の文庫としては比較的分厚いだけあって、二人の恋模様のみならず、様々な事件が起こる。序盤がやや冗長なので『放蕩者に魅せられて』ほどの完成度はないが、「上から目線」でもなく説教臭くもなく、炭鉱での各種の社会的問題を自然に物語に織り込み、なおかつニコラスと旧友マイケルとの確執をうまく使って最後まで読者の興味を逸らさないようにした点、大いに評価できる。
 ロマンス小説として面白いことは勿論、ロマンスという形容を外しても小説としての地力を感じさせる佳品。

放蕩者に魅せられて (ラベンダーブックス)

放蕩者に魅せられて (ラベンダーブックス)

もう一度あなたを (ライムブックス)

もう一度あなたを (ライムブックス)

ヒストリカルロマンスを初めて読む人にぜひ勧めたい傑作達