縮みゆく記憶/マルティン・ズーター
- 作者: マルティンズーター,シドラ房子
- 出版社/メーカー: 武田ランダムハウスジャパン
- 発売日: 2008/08/08
- メディア: ペーパーバック
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マルティン・ズーターはスイスの作家。「スイス人の書いたミステリって読むのは初めてだな」などと思ったが、ミステリという枠を外しても、スイス人の書いた小説を読むのは久しぶりだ。おそらくは二十年近く前、ヨハンナ・シュピリ『アルプスの少女ハイジ』以来ではないかと思われる。
コンラート・ランクは、子供の頃からスイスの大富豪コッホ家の御曹司トーマスの従者として育った。彼の母親もまた同じ家の使用人だったからだ。老境に至り、相変わらずコッホ家のため、別荘管理人として働いていた彼だが、ある日失火で建物を焼いてしまう。しかしコッホ家の実力者エルヴィラは、なぜかコンラートを少しも責めず、イタリアへと行かせた。イタリアで幸福な生活を送っていた彼だが、アルツハイマー症を発する。コンラートはコッホ家の屋敷へと引き取られ、治療を始める。だが館には、彼の幼い頃の記憶が蘇ることを恐れる人間がいた。
「謎の難易度が低い」と言おうか、黒幕が隠している秘密は、どちらかと言えば陳腐なものなので、多分六割以上の読者が正確に言い当てることができるのではないだろうか。しかし老境の差し掛かったコンラートが思い出す、色々な時代のコッホ家の人々との記憶や、エルヴィラを中心とするスイスの上流階級の描写など読ませるところは多々あり。つまらなくはない。
ストーリー展開はゆっくりだし、最後に明かされる秘密もそれほど意外性のあるものではないので、サスペンスというより、数奇な男の一生を描いた小説として読むといいかも。