FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

罪/カーリン・アルヴテーゲン

 

罪 (小学館文庫)

罪 (小学館文庫)

 カーリン・アルヴテーゲンは、近年話題となった『ミレニアム』のスティーグ・ラーソン同様スウェーデンの作家。
 繊細な人間描写と、全体的に哀しみに帯びたサスペンスを描く。もっともラストには救いがあることが多く、読んでいてそれほど暗い気分にはならない。彼女のデビュー作であるこの『罪』も例外ではない。
 会社経営者ペーターは、幼い頃から母親に疎外されながら育った。少なくとも本人はそう信じており、亡き父親の温かさが忘れられなかった。ペーターの心の傷をさらに深く抉ったのは、経理係の横領で、これで彼は多額の借金と、パニック障害を抱えることとなった。そんな彼はある日、突然見知らぬ女から、面識のない会社社長ルンドベリへの届け物を強引に頼まれる。引き受けたのはいいが、届けものの中身はなんと女の指。ルンドベリは、ずっとストーカー行為に悩まされており、今度のことも同じストーカーの仕業だと思われた。ルンドベリから高額の報酬を約束されたペーターは、にわか私立探偵に変わり、ストーカーの謎を追う。やがてルンドベリとペーターは、単なる暫時の依頼人と私立探偵という関係を越え、友情を育んでいく。
 「犯人の真の狙いがこういうことなら、わざわざこんなまどろっこしい方法を取らなくてもいいじゃないかな」などと思うが、これはやはりある一定の水準を越えた良きサスペンス、そしていい話である。