FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

嘘をつく舌/アンドリュー・ウィルソン

嘘をつく舌 (ランダムハウス講談社文庫)

嘘をつく舌 (ランダムハウス講談社文庫)

 まったく知らない作家なのだが、滅茶苦茶面白かった。これまで伝記を主に著わしてきており(パトリシア・ハイスミスのそれも書いている)、これが初めて手掛けたフィクションだというのだが、信じがたい。
 ヴェネツィアの土を踏んだイギリス人の青年アダム。彼はおかしななりゆきで、隠遁している老作家クレイスの身辺の世話をすることとなった。古い邸宅に住まい、熱心な美術品の蒐集家で、謎めいたクレイスに、アダムは深い関心を持つ。ある日、彼はクレイスに宛てられた脅迫状と思しき手紙を発見する。クレイスの伝記をものにし、作家になりたいという野心を抱いたアダムは、老作家の過去を探る。それはおぞましい悲劇の始まりだった。
 シンプル・イズ・ザ・ベスト。
 物凄い大掛かりな謎はないし、斬新な展開も見られないのだが、しっかりとした文章と、落ち着いた雰囲気が魅力的。誰か、実力のある監督が百分ぐらいの地味なミステリ映画にしてくれないだろうか。
 己に破滅をもたらす好奇心、執拗な追跡と迫害、善と悪の逆転といった要素が、どことなくゴシックロマンを想起させる。
 作者にはぜひぜひ、またフィクションを、できればこのようなサスペンスを書いて欲しい。

冷たい月 (ランダムハウス講談社文庫)

冷たい月 (ランダムハウス講談社文庫)

↑同じ出版社の心理サスペンスならば、これも面白い。