FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

リヴァトン館/ケイト・モートン

リヴァトン館

リヴァトン館

 出典を正確に明かすことができなくて申し訳ないが、おそらくネット上の掲示板のどこかで、読んだ本の感想としてこんな文章があった。「カレーライスだと思って注文したら、ハヤシライスが出てきた。けれど、そのハヤスライスもそこそこうまかった」。
 もしかしたら、「ハヤシライスが出てきた」以降の文章は、当方が記憶を改竄してでっち上げたものかもしれない。だが、このケイト・モートン『リヴァトン館』の感想を、と考えて咄嗟に出てきたのが前記の文章だった。
 ……カレーライスだと思って注文したら、ハヤシライスが出てきた。けれど、そのハヤスライスもそこそこうまかった。
 ……帯やあらすじでゴシック風サスペンスだと喧伝されている小説を読んだら、それはミステリとしての要素もある歴史小説だった。ある事件に隠されたものの存在を冒頭からちらつかせているにも関わらず、その事件そのものに到達するまでに結構頁数があるうえに、その隠された真実とやらもまあまあと言ったところなので欠点がないわけではないが、総じてそこそこ面白かった。
 最初からカレーライス(ゴシック風サスペンス)ではなくて、ハヤシライス(謎解きの要素もある歴史小説)だと教えてくれていたならば、もっと評価は高かっただろう。この『リヴァトン館』はゴシック小説と呼ぶにはおどろおどろしさが足らないし、展開がゆったりとしており、前述の通り事件そのものが起こるのが遅いので、サスペンスと呼ぶには肝心要のサスペンス性が欠如している。
 介護施設で暮らす百歳近い老女グレイスの元に、新進気鋭の映画監督が訪れる。かつて一九二四年にリヴァトン館で起きた事件……ある詩人の死と、彼の死が名門の美しい姉妹にもたらした悲劇……を映画化したい、そしてこの事件の現場に居合わせたうちの中で、ただ一人の生き残りたるグレイスに話を聞かせてほしいというのだ。
 グレイスは、十四歳の少女のときから、メイドとしてリヴァトン館に長らく勤めていた。そして一九二四年の事件には公的に知られている以上に深い関わりを持っていた。ただこれは、グレイスが墓場まで持っていくつもりの秘密だ。グレイス自身の出生の秘密と合わせて。
 二十世紀初頭のイギリスのカントリーハウスで生きた人々、上流階級の人々と使用人達、そして時代の推移や個人的事情によって彼らの上に訪れた様々な変化を、老女の回想という形で、ゆったりと典雅に描いた作品。ミステリとしての要素もあるが、ここにあまり期待し過ぎるとがっかりするかもしれない。
 第二作は、またまた長い時間を行きつ戻りつするタイプの歴史ミステリらしく、出生の秘密、コーンウォール地方の屋敷、閉ざされた秘密の花園などと魅惑的な単語が並んでいるので、おそらく買ってしまうに違いない。東京創元社から出るとのことだが、文庫だと嬉しいな。
 なにか今回の感想文、滅茶苦茶長くなった。