FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

悪魔の調べ/ケイト・モス

悪魔の調べ(上)

悪魔の調べ(上)

 ゴシックロマンの要素を併せ持つ冒険小説。森に囲まれた大邸宅、不気味な霊廟、謎めいた書物や譜面、秘めた力を持つタロットカード、うさんくさい家系、そしてヒロインの前に現れる幽霊……と、ここまでゴシックホラー的小道具を有しつつ、内容は読みやすく、陰惨な場面がときとしてあろうが、基本的に明るく、健全で、力強い。
 ヒロインは二人。十九世紀末のパリに生きる娘レオニー・ヴェルニエ。もう一人は現代のアメリカ人女性ライターメレディス・マーティン。
 レオニーは大好きな兄アナトールと、若く美しい未亡人である伯母イゾルデの大邸宅へと向かうことになった。イゾルデの年の離れた亡夫は色々な意味で神秘的な男だったらしく、図書室には彼が著したタロットの本があった。また村には忌まわしき悪魔伝承が残っている。レオニーは知らなかった。アナトールとイゾルデとの間にロマンスが生じたこと、そしてイゾルデを含めたヴェルニエ一族を狙う狂気の連続殺人鬼との対決が迫っていることを。
 マーティンは、作曲家ドビュッシーの伝記を執筆するため(ちなみにドビュッシーとアナトールは友人という設定。むろんマーティンは知らないが)、そして己の家系の謎を探るため、パリへと向かった。マーティンは調査を進めるうち、ヴェルニエ一族へと、そして秘宝たるタロットカードへと辿り着く。それとはまた別に、全く種類の異なる現実的な謎が彼女の前に現れる。現地の青年と恋に落ちた彼女だが、彼の父は謎めいた死を遂げていた。その死は本当に事故死だったのか。
 とにかくもりだくさん。ロマンス、ミステリ、ホラー、アクションと、読者を楽しませる要素を「これでもかこれでもか」と丼のように詰め込まれた小説だ。それはかなり成功しており、上下巻で千ページ近い小説でありながら、読みやすく、飽きさせない。
 繊細だったり、暗かったりする小説がお好きな方には向かないだろうが、決して茶化しでなく、健全なエンターテイメント好きには勧められる。

悪魔の調べ(下)

悪魔の調べ(下)