FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

最終目的地/ピーター・キャメロン

最終目的地 (新潮クレスト・ブックス)

最終目的地 (新潮クレスト・ブックス)

 映画化されていると知り、それはそうだろうなと思った。適度に文学性が存在し、適度に通俗性が感じられるから。
 南米ウルグアイ、人里離れた大邸宅(この設定だけで血が滾る)に、自殺した高名な作家の一族が暮らしている。作家の妻。愛人とその幼い娘。兄と同性の恋人。彼らの閉鎖的な生活は、作家の伝記を書きたいと志す一人の青年が現れたことで変化を遂げる。
 同じ設定で陰惨極まりないゴシック小説が書けそうなものだが、ピーター・キャメロンのこの小説はそれぞれの登場人物が痛みを抱えつつも、明るく甘やかな印象が強い。幾つかの別離を描きつつも後味は悪くないし、なによりも甘美なロマンスが一つの大きな主軸となっているためだ。おそらく本のあらすじに目を通した読者が脳裏に描くよりも、糖度の高い物語ではないだろうか。
 文章が繊細で美しく、絵画的に整った情景が読んでいて目に浮かぶ。
 このエレガントな内容で、アンソニー・ホプキンズやシャルロット・ゲンズブール真田広之というビッグネームを集めている映画ならば、日本で上映されたとしても大コケすることないだろう、多分。そしてラブストーリーとして売り出されるはず、多分。