FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

もつれた蜘蛛の巣/L・M・モンゴメリ

もつれた蜘蛛の巣 (角川文庫)

もつれた蜘蛛の巣 (角川文庫)

 篠崎書林より出版されたものを読み始めてから、ごく最近(2009年8月)角川書店より復刊されていることを知った。『赤毛のアン』シリーズで有名なモンゴメリが大人向けに書いたロマンスである……が、ロマンス以外の要素も詰まっていて楽しい。
 実はモンゴメリは、子供の頃に『赤毛のアン』を読んだきりだが、ずいぶんとこの作家に対する印象が変わってきた。
 大団円という表現がしっくりくるエンディングに代表されるお話作りの巧さもさることながら、モンゴメリは色彩と植物、両方の固有名詞を用いた風景描写がとかく達者だ。そして個人的な楽しみだが、素敵な名前の建築物がたくさん出てくるので嬉しい。
 深い関わりのあるダーク家とペンハロウ家。婚姻によってもつれた蜘蛛の巣のように絡み合った両家の人々の多くが求めているのは、家宝たる水差しである。いま、持ち主たる家長的存在の女傑ベッキー・ダーク(旧姓で呼べばレベッカ・ペンハロウ)が死にゆこうとしている。ジャンルがコージー・ミステリならばまず真っ先に殺されるだろう毒舌家の老女は、一体いかなる遺言を残すのか。
 若く美しい女性ゲイの危なっかしい恋愛、未亡人ドナが喪服を脱ぎ捨てるまで、結婚当日に夫との別居を決めたジョスリンの真意など、複数のロマンス、そしてロマンス以外のドラマが同時進行で進んでいく。
 「そんなにあっさり許していいのか」と思う部分なきにしもあらずだが、健全な面白みがある。モンゴメリの文章は極上だが、映画にしてもいいかもしれない。

赤毛のアン―赤毛のアン・シリーズ〈1〉 (新潮文庫)

赤毛のアン―赤毛のアン・シリーズ〈1〉 (新潮文庫)