FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

人形遣いの謎/クリスティアン・ヴァルスツェック

人形遣いの謎

人形遣いの謎

 惜しい……惜しい、Googleで『人形遣いの謎 クリスティアン・ヴァルスツェック』で検索をかけてみても、237件しかヒットしない。もっと読まれてしかるべき、そして賞賛されるべき作品なのだが。
 読んでいて、連想したのはJ・A・バヨナ監督『永遠のこどもたち』だった。「この謎に、どんな落とし所をつけるのか」……意外にして、説得性のある結末に、ミステリファンはきっと大喜びするはず。
 ナポレオン戦争後の欧州。十四歳の少年マルティンは偶然町を訪れた人形芝居にひどく魅せられ、誘われるまま人形遣いメヴィウスとともに旅立つ。厳しい親方の下でつらい生活を送っていた彼にとっては、好きなだけ人形を作ることのできる生活は魅力的なものだった。マルティンはそれまで自分自身知らなかったが、天才的な人形師だったのだ。しかも彼の作った人形は、メヴィウスの舞台によってさらに輝くこととなった。
 だがマルティンは、メヴィウスの暗い野望に気付かなかった。彼は、ロシア皇帝アレクサンダー一世の前で人形芝居を上演することに、狂おしいほど妄執を燃やしていた。広大な欧州をさ迷ううち、メヴィウスの一座は貴族の間でも評判を呼び、やがて本当に皇帝の前へと招かれることとなる。
 ニール・バーカー監督『幻影師アイゼンハイム』やクリストファー・ノーラン監督『プレステージ』も脳裏をよぎる。どことなく頽廃的な雰囲気の欧州が舞台であるところと、そしていわゆる「見世物」の放つ妖しさやいかがわしさが感じられることと、そしてラストの強烈さが共通している。
 無知にして知らなかったが、この作品の中で理性や叡智を示しているエーベルバッハ修道院院長にして医師リントパイントナーは実在の人物とのこと。もう一つ映画の名前を出すならば、この修道院ジャン=ジャック・アノー監督『薔薇の名前』の舞台の一つとなったところだ。
 この小説はポーランドに生まれた作家が、ヤングアダルト向けに書いたものだが、上記の映画が琴線に触れた方、そしてジョン・ディクスン・カーの怪奇ミステリが好きな読者はきっと気にいるはず。
 隠れた傑作。
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