FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

矢上教授の午後/森谷明子

矢上教授の午後

矢上教授の午後

 『七姫幻想』以来、この作者の本を読む。あちらも傑作だが、この『矢上教授の午後』もなかなか面白かった。帯には「英国伝統ミステリのコクとユーモアがたっぷり」とあるが、このゆっくりとした展開、どこかすっとぼけた雰囲気、底に潜んだ毒気は確かに英国伝統ミステリを思わせる。当方が思い浮かべたのは、マイクル・イネスだった。
 生物総合学部において日本古典文学を教える、白髪白髯の非常勤講師、通称、矢上教授。ミステリマニアである彼は、ミステリ小説の蒐集魔である。夏季休暇期間、雨や停電のために古い校舎が閉ざされ、矢上教授を含め中から人が出られなくなった。困惑する大学関係者の前に、大学関係者ではない正体不明の男の死体が現れる。それぞれになにか秘密を抱えているらしい関係者達の思惑、矢上教授の謎に対する調査、さらになんらかの目的を抱えて大学を訪ねてきて、そのまま閉じ込められてしまったものたちの行動……これらが絡み合い、サスペンスフルな空気を醸し出している。
 上品でありながら苦味も効いており、なかなか好ましいミステリだった。

七姫幻想 (双葉文庫)

七姫幻想 (双葉文庫)