FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

赤い月 マヒナ・ウラ/森福都

赤い月―マヒナ・ウラ

赤い月―マヒナ・ウラ

 現代日本に生きる大学生、新宅慶一は知らない。自分の脳髄に、彼の曽祖父の直吉が住み着いていることに。そして彼の家族が持つ華やかな指輪が、かつて百年も前、直吉が巻き込まれたある事件と関わっていることに。
 時代は大正4年のホノルル、舞台は日系人御用達のホテル。この時代、この土地、そしてこの舞台……設定の勝利である。ハワイ移民の歴史、ごくごく限られた一部の成功者を除けば、おおもと苦難の歴史を辿った移民、その労働問題という重いテーマを扱っているものの、少年直吉と、白木屋旅館の次男坊、磯次郎の活躍が、軽やかな雰囲気を与えている。
 直吉は、出稼ぎ移民の両親を持つ日本人の少年だ。相次いで父母を失ってからは、ハワイはホノルルにある日系人御用達のホテルの白木屋に雇われ、奉公人として暮らしている。宿泊客、大富豪の夫人であるうら若き美女リヨが海岸で亡くなったと知り、彼女に憧れていた直吉はひどい衝撃を受けた。彼女の指からは、エメラルドの指輪が消えていた。
 磯次郎と直吉のコンビは、殺人から誘拐まで次々と巻き込まれた事件の謎を解いていく。だがリヨの死、そして消えた指輪の謎だけは解けない。ゆえに直吉は磯次郎と離れ、成長して結婚し、日本に帰国し、肉体が滅んでからも、曾孫の頭の中で悩み続けるのだ。
 著者のミステリを久し振りに読んだが、これは当たり。複雑なときの複雑な問題を扱っているのだが、あまり予備知識のない人間でも素直に物語に入り込み、謎解きを楽しむことができる。