FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ヘッケルの死霊/ジョン・マクノートン監督

 ホラーの巨匠たちが自らメガフォンをとり競作する全13回のホラー・アンソロジー・プログラム、『マスターズ・オブ・ホラー』第一段の中の作品。DVDでは、トビー・フーパー監督『ダンス・オブ・ザ・デッド』とともに収録されている。
 原作はクライヴ・バーカーだが未読。どこで読んだのか忘れたが、「恐怖と笑いは紙一重」という文章を目にしたことがある。この『ヘッケルの死霊』の場合、その紙一重を破り、笑いの方面にまでいってしまってのではないかと思われる。あのオチに到着するまで、上品なゴシックホラー風だっただけに、余計妙な印象が目立つ……しかし、撮った側は、おそらくあのオチこそがやりたかったのだろう。演じている皆さんも、ノリノリだった。
 おそらくは百年ほど前のアメリカ。死者を蘇らせる力があるという老女のもとを、ある美貌の青年紳士が訪れる。最愛の妻の葬式からそのまま来たという彼は、妻の蘇生を依頼する。だが老女は断り、医学生ヘッケルの話を聞かせる。
 ヘッケルは科学的に死者の蘇生を試みようとする医学生フランケンシュタイン博士の話に憧れを抱くものの、彼自身の実験は失敗が続いていた。ある日、重い病に倒れた父の話を聞いた彼は、実家に戻るために旅をすることとなる。中途、雨の中、彼は墓地裏の農場に住む老人の家に招かれ、夜を明かすこととなった。家には、老人とはあまりにも不釣り合いで若く美しい妻エリーズがいた。ヘッケルはエリーズに一目で魅惑される。窓の外をしきりに気にしているエリーズと、老人はなにか暗い秘密を抱えているようだった。
 ラスト五分の一にさしかかったところで、作風は唐突にゴシックからエキセントリックへと変わる。上品という言いかねる結末だが、ストーリー展開は十分に面白く、「どんな展開になるんだ」と見る側をどきどきさせる力はあり。
 なんとも奇妙な冥婚譚だった。

↑『ヘッケルの死霊』はこちらに収録されている。