FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

デトロイト・メタル・シティ/李闘士男監督

デトロイト・メタル・シティ スタンダード・エディション [DVD]

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 このファンタジックな内容にも関わらず、実写で見て面白かった。ということは原作の漫画やアニメーション版はもっと面白いことだろう。
 「僕がしたかったのは……こんなバンドじゃない!!」なる惹句は内容にぴったりと即し、見事に的の真ん中を射抜いている。
 おしゃれな学生生活、おしゃれなポップ歌手デビューを夢見、大分から上京してきた純情で小心者の青年、根岸。彼の夢は、「歌手デビュー」という部分のみ適った。しかも人々の注目を浴び、大勢の崇拝者すら生み出した。
だが彼の願っていた歌手生活とはまるっきり異なっていた。彼の芸名はヨハネ・クラウザーII世。殺人や暴行を常に歌のテーマとした悪魔系デスメタルバンド『デトロイト・メタル・シティDMC)』のボーカリストとなっていたのだ。どうもメタル狂いの女性社長に目をつけられ、才能を認められたことが運のつきだったらしい。
 やがて根岸、いや社長の造り上げたクラウザーII世なる虚像とDMCの名前は、平穏で洗練された暮らしを送りたい根岸の願いとは裏腹に、どんどんと世に知られ、熱狂的なファンの数は増えていく。やがて彼は学生時代に片思いだった女性と再会する。しかし彼女はDMCが大嫌いだった。本当のことは大分の家族には言えない、片思いの女の子にも打ち明けられない。やがて根岸は大きな壁にぶつかり、実家へと足を向けることとなる。
 実家絡みのシーンは問答無用で面白い。特撮映画の中から抜け出してきたようなファッションのクラウザーが、真面目そうな人々(彼の肉親、しかし彼=クラウザーだとさっぱり気付かない天然揃い)と食卓を囲んでいる映像には、思わず噴き出す。お母さん、そのTシャツで農作業かよ!
 真面目で優しくややヘタレな青年が、自分自身とはさっぱり違う人格のアーティストとして売り出され、爆発的な成功してしまうという設定がおかしく、しかもそのおかしさは真実を知る人間、知らない人間との絡みによってさらに増大していく。根岸の家族は、母親を筆頭にいいキャラが揃っていた。
 楽しい映画。