柔らかい殻/フィリップ・リドリー監督
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2005/04/23
- メディア: DVD
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耽美的な映像に彩られた、憂鬱な映画。
水に濡れた少年の亡骸、双子の黒衣の老女、黄金の麦畑、その家に立つ白い家、数々の魚の骨や古い銛、貝殻、帆船の模型、海にまつわる様々なもので飾られたその家、そしてその家の女主人の亡夫の髪や油が詰まった箱。こういった小道具が、悲劇的なストーリーと噛み合い、忌まわしい美を前面に押し出している。
八歳の少年セスは、本ばかり読んでいる内向的な父親と、高圧的な母親に挟まれ、窮屈な日々を送っていた。彼と母親の希望の象徴は、戦争でアメリカのために勇敢に戦い、英雄となった、年の離れた兄キャメロン。彼はいま家を離れている。
息苦しい日々の中で、セスの関心はイギリス人の未亡人ドルフィンにあった。黒衣に身を包み、他人に心を閉ざし、自殺した夫の思い出に生きる彼女を、セスは本に出てきた吸血鬼ではないかと疑った。やがて村で連続殺人が発生し、友人が殺されたことから、その危険な思い込みはさらに強くなる。
やがてある理由でキャメロンが帰宅する。戦争のため心に傷を負ったキャメロンと、孤独な女性ドルフィンは惹かれ合う。キャメロンはドルフィンとの時間を作るためにセスすら排除し、ドルフィンは若々しさを取り戻し、生きる輝きに満ちるようになる。だがその様子は、セスには吸血鬼ドルフィンが兄の精気を啜り、己の活力に変えているようにしか見えなかった。
映像の陰性の美しさの点でも、とにかく嫌な結末という点でも、印象に残る映画。イルカの名を持つヒロインの家の美しさは、ここ数年に見た映画の中に出てきた家としても屈指。代々漁師をしてきたという彼女の家は、前述の通り漁業に関わる数多のものに飾られているのだが(特に大型の骨がいいよ!)、それが戦争……というより海での虐殺でトラウマを負うキャメロンとの悲恋とあいまい、いっそう効果を上げている。
バッドエンドに耐性ある人向けの映画。