FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

警視の死角/デボラ・クロンビー

警視の死角 (講談社文庫)

警視の死角 (講談社文庫)

 ロンドン警視庁警視ダンカン・キンケイドを主役に据えたミステリのシリーズ第五作。殺人事件が起こり、キンケイド達がそれを解決するというパターンを取っているが、捜査や推理の過程と同じぐらい、人間ドラマや登場人物達の心理の動きの描写に重きが置かれている。作者がアメリカ出身でありつつもイギリスやその文化に造詣深く、作品もまたイギリスを舞台にしているという点では、マーサ・グライムズのリチャード・ジュリー警視のシリーズと似ている。ただしあちらに喜劇の軽やかさがあるのに対し、このダンカン・キンケイド警視のシリーズの作風はぐっとシリアスである。
 ロンドン警視庁警視ダンカン・キンケイドとその部下、巡査部長のジェマ・ジェイムズは恋人同士。近頃、ジェマの胸を騒がせるような事件が起きた。ダンカンのかつての妻、文学研究者のヴィクトリアからキンケイドへ連絡があったのだ。ヴィクトリアは亡き詩人リディア・ブルックに傾倒しており、その伝記を執筆するつもりでいた。やがて詳しく彼女の身辺を調べているうち、自殺とされていたその死に疑いを抱くようになっていったのだ。半信半疑のダンカンだが、やがてヴィクトリアその人が殺人事件の被害者となる。
 ミステリとしては今一つながら、物語としてはとにかく読み応えがある。文庫本の裏のあらすじに「大好評の警視シリーズ最高傑作」とあるが、それも過言ではあるまい。
 特にネタバレになるような要素もないだろうから、この作品から読んでもいい。ダンカンとヴィクトリアの現在と過去、死んだリディアの関係者の現在と過去、どれもが複雑に入り込んだ秀作。