FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

造花の蜜/連城三紀彦

造花の蜜

造花の蜜

 なにを書いてもネタバレになってしまいそうで、なにから書いたらいいのか分からない。連城三紀彦は美しい文章で、人工美という言葉を具現化させたようなミステリを書く。しかし人工的であればあるほど、彼の作品を何冊か読んだ後には、仕掛けてくる罠に見当がついてしまう。だがこの『造花の蜜』はいかにも連城らしい作品でありながら、彼のマジックに慣れた読者をも楽しませる味わいを持つ。
 歯科医である富豪の夫と別れ、幼い圭太とともに印刷工場を営む実家へと戻ってきた香奈子。ある日、圭太が攫われそうになり、香奈子は驚愕する。やがて一ヶ月後、今度は未遂ではなくて圭太は本当に攫われる。しかも幼稚園に圭太を迎えに来たのは、香奈子だとしか見えない女だったという。
 香奈子は混乱し、香奈子と圭太の関係者も混乱し、捜査陣もまた混乱する。
 むろん読者も混乱する。
 前半から中盤までのテンションがすごい。締めの部分にはやや微妙な読後感を抱いたが、ここ以外ではまれな読書経験ができた。
 『花葬』シリーズほどとまでは行かずとも、「連城三紀彦健在なり」を示した一作。もっとミステリを書いてくれ。