造花の蜜/連城三紀彦
- 作者: 連城三紀彦
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
- 発売日: 2008/11
- メディア: 単行本
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なにを書いてもネタバレになってしまいそうで、なにから書いたらいいのか分からない。連城三紀彦は美しい文章で、人工美という言葉を具現化させたようなミステリを書く。しかし人工的であればあるほど、彼の作品を何冊か読んだ後には、仕掛けてくる罠に見当がついてしまう。だがこの『造花の蜜』はいかにも連城らしい作品でありながら、彼のマジックに慣れた読者をも楽しませる味わいを持つ。
歯科医である富豪の夫と別れ、幼い圭太とともに印刷工場を営む実家へと戻ってきた香奈子。ある日、圭太が攫われそうになり、香奈子は驚愕する。やがて一ヶ月後、今度は未遂ではなくて圭太は本当に攫われる。しかも幼稚園に圭太を迎えに来たのは、香奈子だとしか見えない女だったという。
香奈子は混乱し、香奈子と圭太の関係者も混乱し、捜査陣もまた混乱する。
むろん読者も混乱する。
前半から中盤までのテンションがすごい。締めの部分にはやや微妙な読後感を抱いたが、ここ以外ではまれな読書経験ができた。
『花葬』シリーズほどとまでは行かずとも、「連城三紀彦健在なり」を示した一作。もっとミステリを書いてくれ。