FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

狐火の家/貴志祐介

狐火の家

狐火の家

 『硝子のハンマー』が今一つだっただけに、失礼ながらさして期待せずに読んだのだが、これは面白い短編集だった。
 なぜか殺人事件によく巻き込まれる刑事弁護士、青砥純子。元泥棒(ひょっとして現在も?)の防犯ショップの店長、榎本径。この二人が、密室だったり密室でなかったりする殺人事件に挑む。もっとも大抵謎を榎本が解いており、弁護士はピエロの役回りをさせられることもままある。
 「狐火の家」、「黒い牙」、「盤端の迷宮」、「犬のみぞ知る Dog knows」の四編が収録されているが、特筆すべきはやや長めの「狐火の家」と「黒い牙」。前者は田舎の日本家屋で中学生の少女が殺された事件。容疑者となったのは、死体の第一発見者となった少女の父親だ。榎本は推理を二転三転させ、純子は惑わされ、読者も惑わされる。哀れなお話である。
 対して「黒い牙」では笑っていいのか気味悪がっていいのか分らないトリックが炸裂する。できるのか、これ。ミステリにこんなことを言うのも野暮かもしれないが、殺人が成功すると分かっていても、実行するだけの技術とガッツの持ち主はなかなかいないと思う。これを考えつき、なおかつ行動に移した犯人は、きっと犯罪以外の分野でも成功を収めることができただろうと感じられる。皆も読んで愕然とするがいい。
 よくできた本格ミステリ短編集。