FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

儚い羊たちの祝宴/米澤穂信

儚い羊たちの祝宴

儚い羊たちの祝宴

 帯には「あらゆる予想は、最後の最後で覆される。ラスト一行の衝撃にこだわり抜いた、暗黒連作ミステリ」とある。
 あらゆる予想が覆されるかどうかはさておき、結末の意外性にこだわりが感じられる、そしてラスト一行で実に嫌な気持ちにさせられることが多い連作短編集である。
 本当に黒い。
 ただし、この中にはラスト数行で思わずにやりとさせられる作品も含まれている。
語り手も、語り手がしきりに語る対象も、寄る辺ない身の上の少女が多いせいか、館ものという舞台背景もあいまい、佐々木丸美を連想させられる。もし彼女が『崖の館』のようなタッチの本格ミステリを書き続けていたら、案外この『儚い羊たちの祝宴』のような境地に達したのではないか。どことなく耽美性すら感じさせる文章と、暗澹とした雰囲気とが、そんな連想をさせる。
 お話の多くは、富と歴史を持つ名家を舞台に、そして名家において主従関係にある少女達をヒロインに据えている。各作品達のヒロイン達の間に見え隠れするのは、大学の読書サークル「バベルの会」。
 丹山家令嬢である吹子に仕える孤児、夕日。夕日は聡明で美しい吹子を慕い、愛する。そのあまり夕日は吹子を悪く言う相手、苛める相手を憎むようになる。「身内に不幸がありまして」。生母を失い、貧困のうちに苦労を続けた私生児あまりは、父の館である六綱家へ。だがそこで待っていたのは、使用人としての扱いだった。彼女は幽閉されている男の世話を言いつけられるのだが「北の館の罪人」。風光明媚な山脈の中に佇む飛雄館。ある日、この館は登山客を迎え入れることとなる「山荘秘聞」。名門小栗家の後継者として生まれながら、女性だという理由で実の祖母から疎んじられる純香。彼女の心の支えは、使用人である少女、玉野五十鈴だった。祖母の望む男児が誕生したときから純香の境遇は悲惨なものとなる「玉野五十鈴の誉れ」。これが一番嫌な話だった。ラスト一行がなにより効いている。
 そしてラストに「バベルの会」がメインとなる「儚い羊たちの晩餐」がくるのだが、正直いってこの短編がいまいちぴんとこなかった。この一作のみが他の作品とずいぶんと毛色が異なっているため、わざわざ「この短編集のラストに持ってこなくていい」という気持ちになった。
 暗さと美しさと皮肉な笑いに彩られた短編集。