FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ノー・カントリー/ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン監督

ノーカントリー スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

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 凄腕の殺し屋(というより天才的な殺人技術を持つ、彼にしか理解できない思考回路で生きているモンスター)アントン・シガーを演じたハビエル・バルデムがとにかく怖い。この役でアカデミー賞助演男優賞に輝いたというが、納得の演技である。最初に画面に出てきたときから、おかしいと分かる。おかっぱの頭と薄ら笑いが不気味だった。彼は金銭を盗んだ男のあとを追うため、色んな人間に話を聞くのだが、そのたびに店の主人やら、モーテルの経営者やらの生命が気になってならなかった。なにせ唐突に、他者から見ればなんの脈絡もなく人を殺すから。
 テキサス。ルウェリン・モスは狩猟の最中、偶然麻薬取引の現場と思しいものを見ることになった。もっとも取引をしていた人間は銃撃戦の結果なのか、ほとんどが生命を失っていた。
 モスはその場から大金を奪い、シガーに追われる羽目となる。その二人を老保安官エドトム・ベルが追う。
 男臭い、そして血生臭い。
 音響が控え目で、話そのものは単純な追跡劇にも関わらず、恐ろしいほどの緊迫感に満ちている。
 原作はコーマック・マッカーシー『血と暴力の国』だが、未読。原題では『No Country for Old Men』で、これはぴったりのタイトルだ。
 酷い、おぞましい、傑作。
 こののち、ハビエル・バルデムのどんな出演作を見ても『ノー・カントリー』の殺し屋を連想してしまいそうだ。