FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

モンキー・パズル/ポーラ・ゴズリング

モンキー・パズル (ハヤカワ・ミステリ文庫)

モンキー・パズル (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 文庫本の裏のあらすじに「サスペンスの女王が意欲も新たに本格推理に挑んだ傑作」とあるが、やっぱりこのお話もサスペンスだと思う……話自体に迫力はあるけれど、本格ミステリに必要なだけの伏線だとか、手がかりだとかは、さっぱりなかったからだ。
 雪の舞う大学町で、大学の関係者達が次々と殺されていく。一人は舌を抜かれ、二人目は耳を切り取られて、と書くと、まっとうな本格ミステリのようだが、違う。大学の教師でもあり、探偵役ストライカー警部補と過去の因縁あるケイトという、いくらか頼りない、鬱陶しい性格の女性が、連続殺人事件に巻き込まれ、怯える様子を情感豊かに描いたサスペンスだ。ストライカー警部補により捜査場面もそれなりにはあるが、警察捜査の描写よりも、ケイトの感情の揺れ動き、特にその恐怖こそが際立っている。
 一人目の被害者が殺されてからが長く、二人目はなかなか死なない。ケイトが氷雪に閉ざされた建物の中で、ケイトが唐突に読者に明かされる真犯人と対峙するクライマックスにはそこそこ読み応えがある。
 なぜこの作品で英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞を取ったのか。ものすごくつまらないわけではないが、ポーラ・ゴズリングにはもっと他にいい著作があるだろう、と思われる。