FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵/歌野晶午

舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵 (カッパ・ノベルス)

舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵 (カッパ・ノベルス)

 聞いた瞬間、腰から力が抜けていきそうなタイトルである。「著者のことば」にも本書を指して「ゆるミス」、「やわらか本格」とある。
 が、ミステリとしてはまるでゆるくない。むしろ本格ミステリの王道を行くがごとき連作短編集だ。
 舞田ひとみ11歳、小学生。彼女の父親、理一は大学に籍を置く研究者、叔父の歳三は地方の警察の刑事。姪っ子を可愛がる歳三は、自分の抱えた事件について理一に漏らす。そしてひとみとのやり取りの中から事件解決のヒントを見つけ、真相を見出す……というのがおおもとの流れである。
 主役の舞田家以外の人々も、複数話に渡って登場する人間もいる。その再登場の仕方はおおもと悲惨なもので、「金、銀、ダイヤモンド、ザックザク」と「いいおじさん、わるいおじさん」に登場した某少年や、「いいおじさん、わるいおじさん」と「いいおじさん?わるいおじさん?」に出てくるある議員、それぞれの行方には暗澹としたものを感じさせる。
 「いいおじさん、わるいおじさん」で書かれた議員殺し、それに続く「いいおじさん?わるいおじさん?」での大学生誘拐事件、この二つの事件の繋がり、その中で分かるある人物像の逆転は冴えている。作中ベストであろう。
 陰鬱な話が多いが、最終作「そのひとみに映るもの」でちょっと救われる。
 質の高い、本格ミステリ連作短篇集。