Xωρα(ホーラ) 死都/篠田節子
- 作者: 篠田節子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/04/11
- メディア: 単行本
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篠田節子の作品群の中ではぬるい出来なのだろうが、好きな話だ。
音楽家の亜紀と建築家の聡史。互いに配偶者を持つ二人は、十数年関係を続けている不倫のカップルだ。家庭を営むため金銭を稼ぎ、世の大半の人々と同じく肉親や仕事の問題を常に抱えている二人は、ある日すべての連絡を絶った上でギリシャの小島へと渡った。数日間の浮世離れしたバカンス。だがその島ホーラ……いにしえの日々、繁栄と頽廃の双方を極めた都市……の教会は、キリスト教の敬虔な信徒でもなければ、無垢な乙女でもない亜紀に、ある奇跡を見せた。
美しい。美しいが、篠田節子の作品の登場人物は必ずこの世に足を着けている。そしてこの世のしっかり足を着けているがゆえの力強さがある。音楽と、宗教と、島が負った過酷な歴史と、すべてがしっくりと溶け合っている。
主役がどん底に叩き落されるわけではなく(悲劇には見舞われるものの最後で救いあり)なので、篠田節子の作品としては凄惨さが乏しく、物足りない読者は一定数いるだろうが、彼女の耽美幻想的な作品としてはまずまずのもの。
篠田節子の初心者にお勧めしたい。