密室キングダム/柄刀一
- 作者: 柄刀一
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/07
- メディア: 単行本
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最後まで読んだ自分を褒めてやりたい。柄刀一は、優れたミステリの発想をたくさん持っている作家だ。それは間違いない。だが小説家としての技量が、まっくもってそれに追いついていない。卓越したアイディアと知識、そして平均よりやや劣る文章力の持ち主、それが柄刀一ではないだろうか。ミステリとしての出来の良さには多くの場合驚かされるのだが、あまりにも読みにくく、また倫理観の押し付けに人はげんなりとするのだ。
この『密室キングダム』は、九百ページを越える。例によって例のごとく読みにくい。そして例によって例のごとくアイディアは素晴らしい。密室がいくつもいくつも出てくるのだが、細部の出来の良さには驚かされる。ネットの書評を幾つか回って同じ意見をしばしば見かけたが、某老女の死に絡む密室の出来の良さには関心した。前後の状況、そして当人の心理と合わせ、まったく不自然ではない。そして警官殺しも良かった。「自分でもそう言われたら、同じようにするだろうな」とうなずいたものだ。
しかし最後に明かされる犯人の正体と、彼にまつわる事情は……どうにも唐突かつ不自然、そしてご都合主義というものではないだろうか。
昭和最後の年、マジシャン吝一郎、通称『壇上のメフィスト』の館で、その密室殺人事件は起こった。そして彼に絡んだ密室殺人事件は一つでは終わらなかった。
豪華絢爛な雰囲気と、思わず膝を打ってしまうような秀逸な細部、思わず首を傾げてしまうような真犯人の設定を持つ壮大な本格ミステリ。
本格ミステリファンならば、読みにくさを越えてぜひ。