FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

黒の怨/ジョナサン・リーベスマン監督

 設定と出だしは結構良かった。灯台をシンボルとする小さな町ダークネス・フォールズ。この町には、老女マチルダの悪霊伝説が延々と生き続けていた。かつて乳歯を金貨と変えてくれるため、子供達の人気者だった優しい老女マチルダ。火事に遭い、顔面を焼かれた彼女は、以後陶製の仮面に顔を隠すこととなる。やがてマチルダは無実の罪を着せられ、虐殺される。怨念はマチルダを子供好きの老女から、子供を殺す悪鬼へと変えたのだ。最後の乳歯が抜けた子供はマチルダを用心せねばならない。マチルダは闇を愛し、光を恐れる。それが救いだ。
 ダークネス・フォールズの少年カイルは救われなかった。マチルダの伝説は知っており、最後の乳歯は抜けたばかりだったのに。悪霊の光を嫌う性質を知っていたため、彼自身は助かったが、母親は惨殺された。そして母親殺しの罪はカイルに被せられ、彼は施設に送られた。
 十数年後、カイルは忌わしい記憶の残る町へと帰ってくる。かつての自分と同じよう、マチルダに狙われた少年(幼馴染みケイトリンの年の離れた弟でもある)マイケルを救うために。

 設定を聞き、出だしを見て、「小さな町と忌わしい伝説。なんて素敵なゴシックホラー」などと考えたものだが、実際に見てみると別のものばかりが印象に残った。つまり、
 空を飛ぶマチルダ婆ちゃん。
 宙を舞うマチルダ婆ちゃん。
 壁に張り付くマチルダ婆ちゃん。
 小さな町の伝説の悪霊なんだから、もう少し慎ましさを持てよ、マチルダ!ジェームズ・ワン監督『デッド・サイレンス』のメアリー・ショーぐらいでいいから。とにかくマチルダは動きすぎ、飛びすぎ、「これはギャグ映画なのか」と思わず考えたほどである。
 マチルダのあまりにアグレッシブな活躍ぶりが、逆に見るものの恐怖心を萎えさせる。いや乾いた笑いさえ引き起こす。後半はほとんどアクション映画である。良くも悪くもハリウッド産のホラー映画。当方の琴線にほとんど触れるものはなかった。