FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

スリー・パインズ村の不思議な事件/ルイーズ・ペニー

スリー・パインズ村の不思議な事件 (ランダムハウス講談社文庫)

スリー・パインズ村の不思議な事件 (ランダムハウス講談社文庫)

 帯やあらすじに書かれた言葉に「褒め過ぎじゃない?」と思った。だから読み始める前は、「ものすごくつまらなかったらどうしよう」と心配だった。だが、それは違った。この『スリー・パインズ村の不思議な事件』は、ある種の人間にとっては傑作である。ある種の人間とは、アガサ・クリスティーや、レジナルドヒルや、P・D・ジェイムズや、ルース・レンデルや、そういった英国ミステリが大好きな人間である。最近日本に紹介された作家だと、『大鴉の啼く冬』のアン・クリーヴスを加えていいかもしれない。ルイーズ・ペニーはカナダの作家なのだが、当方は前記の英国のミステリ作家達が大好きなので、この作品も大層好ましく感じられた。
 平和と静謐を具現化したようなケベック州の村スリー・パインズ。施錠の習慣すらないこの村で、引退した元教師の老女ジェーンが殺された。ハンターの誤射。最初はそう思われた事件は、村人達の過去に絡む複雑な陰翳を帯びていた。
 人間観察、風景描写、そして謎解き、この三位一体がしっくりと溶け合った良き作品。退屈だとか長いだとかで、嫌いな人は嫌いだろうが、好きな人間にはたまらないはず。ベテランなのに、殺人事件が発生するたび驚かずにはいられないというガマシュ警部や、個人プレイはできてもチームプレイがとかく苦手なニコル刑事など捜査陣も地味ながら秀逸。
 ミステリファンに対する、カナダからの素敵なプレゼントである。英国ミステリ好きはぜひ。

大鴉の啼く冬 (創元推理文庫)

大鴉の啼く冬 (創元推理文庫)