FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ケニアに死す/M・M・ケイ

 

ケニアに死す (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 108‐1))

ケニアに死す (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 108‐1))

 作者はインド生まれで、父親は当時ラジプタナと呼ばれていたラジャスタン州の州会議長。夫も軍人で、彼女は夫の軍務に従い、世界各地を転々としたという。作者のそんな経歴が、良くも悪くも前面に出た作品。
 良い面から上げよう。作者がケニアに実際に滞在しただけあり、極度の暑さを初めとした土地の過酷な自然、都会人から見た娯楽の少なさ、白人の支配に対する有色人種の抗議活動の厳しさなどが、躍動感と迫力をもって描かれている。優れたストーリーテリングの才と、描写の巧みさとが、自然に読むものを作品に没頭させる。
 悪いところは、訳者があとがきで述べているよう、あまりにも白人の論理で物語が語られているところであろうか。読者からの反感を買うというにとどまらず、今では表現を変えなければ同じものは出版できまい。人種差別ばかりではない、ネタバレになるため詳しく書くことはできないが、現代のモラルで計ったときに、首を傾げたくなるような部分が散見される。
 若く美しい女性ヴィクトリアは、後悔していた。彼女の伯母エミリーはケニアに住まう開拓農場主、現在ではエミリーの孫イーデンが主力となった農場を切り回している。エミリーに頼まれ、戦力となるためケニアに向かったエミリーだが、イーデンと顔を合わせることが憂鬱だった。はっとするほど美男子のイーデンはエミリーの幼馴染みにして恋人だ。だが他の女性アリスと結婚してケニアに連れていき、ヴィクトリアをいたく失望させた。だがアリスはケニアで惨殺されており、犯人はいまだ分かっていなかった。
 ロマンティック・サスペンス。ヒロインはまだしも、彼女の恋人たる男性に魅力がなさすぎである。