殺人への扉/エリザベス・デイリー
- 作者: エリザベスデイリー,Elizabeth Daly,葉戸ひろみ
- 出版社/メーカー: 長崎出版
- 発売日: 2008/06
- メディア: 単行本
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クリスティーがこの作家のミステリがお気に入りだったこと、よく分かる。正直に言えば、この『殺人への扉』を読んで、よく分かった。空想に過ぎないのだが、クリスティーはこの作品を、デイリーの作品の中でも気に入っていたのではないだろうか。
ミステリとしてはよくあるタイプの謎、よくいるタイプの犯人(クリスティー本人の小説の中にも、よく似たようなものがある)ゆえ、「思わずあっという」、「オチにのけぞる」というタイプのものではないが、真犯人の姿、その動機は力強く、恐ろしく、そうまさしくクリスティーの手による登場人物の、それもうんと印象的な人間達を思い起こさせる。
亡夫の莫大な資産を継承したゆえ、夫殺しの容疑をかけられた未亡人。マスコミと世間の好奇の視線に追いつめられた彼女は、少数の身寄りや親族達とのみ交わる隠遁者めいた生活を送っていた。そんな静かな生活を送っている彼女の周りでまた事件が頻発、やがて殺人事件が発生する。
前記の通り真犯人もいいが、本の蒐集家でもある、温和な紳士探偵ヘンリー・ガーメッジとその周囲の人々とのやり取りもいい。ことに助手、やけにヘンリーの持ち物に執着するハロルドとの掛け合いがいい。なぜ、それほどヘンリーの所有物を欲しがるんだ、君は。
これは楽しかった。次回のこの叢書の配本であるエリス・ピーターズ『カマフォード村の殺人』にも期待できる。