FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

キッド・ピストルズの最低の帰還/山口雅也

キッド・ピストルズの最低の帰還

キッド・ピストルズの最低の帰還

 『ステーションの奥の奥』を壁に向かって投げつけた当方としては、読む前に激しい不安を覚えた作品集。だが読み始めて安心した。「パラレル英国」と「マザーグース絡みの本格ミステリ」という縛りが、かえってミステリとしての作品の完成度を高いものとしている。
 警察よりも探偵士(いわゆる名探偵。国家からその存在を認められ、厚遇されている)がずっと地位が高く、国民からも信頼されているパラレル英国。警察官は事実上探偵士の部下であり、探偵士を雇うことの出来ない貧しい国民だけが彼らの世話になるのだ。しかしながらパンクス出身キッド・ピストルズとピンク・ベラドンナは他の無能な警察官と異なる存在だった。キッド・ピストルズは外見や言動とは裏腹、鋭利な知能を持つ刑事だった。
 短篇が五つ収録されており、前記にあるよう、いずれもマザーグースに絡んだ本格ミステリである。どちらかと言えば謎解きは小粒、例えば『キッド・ピストルズの妄想』あたりの薀蓄や狂気の論理などの迫力は望めない。その分読みやすく、親しみやすくなっている。ミステリとした見たとき、もっともうまくできているのは監視の中で子供達が猫に変わった「教祖と七人の女房と七袋の中の猫」だろうか。稚気さえ感じられる大胆なトリックが好ましい。
 山口雅也、健在なり。次はぜひともジュブナイルでない、ばりばりの本格ミステリを。