FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

聖女の島/皆川博子

 約十年ぶりに読み返した。当時も傑作だと感じたが、改めてこの小説の持つ凄みに感じ入る。著作数の少なからぬ皆川博子の作品群の中でも最高傑作の一つ。
 廃虚めいた町並みが広がる、絶海の孤島にある施設。十五歳以下の、非行に走った少女達を集めた更生施設。最高権力者(ここに凡庸な権力のシステムが通用するならば)は、修道女たる園長、矢野藍子。
 元より統一が取れていたとは言いづらいこの施設は炎に包まれ、滅した。
 救援のために訪れた修道女に、藍子は語る。
 三十一人いた少女達は、死によって数が減り、二十八人になったはず。しかしどう数えなおしても、三十一人いる。死んだ娘達の顔は分からない。死者はどこへ行った?
 統率者として決して無能と言えない藍子は、美しく驕慢な姉との確執により、異常なほど脆い部分を魂に隠し持っていた。矯正し、無償の愛情によって正しい道へと導かねばならない少女達は、凶暴で施設の大人の言うことなど受け付けぬ。また施設に従事する職員同士の争いもあった。少女達の間で、美や頭の良さや人を惹きつける魅力で抜きん出ているのは浅妻梗子と蓮見マリ。性と暴力にまみれた過去を二人は、他の少女を、そして大人達からも理性を奪っていった。
 耽美と頽廃、そしてなんとも言えぬ冷ややかさに満ちた芸術作品。和製ゴシックロマンの最高峰。