FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ショコラティエの勲章/上田早夕里

ショコラティエの勲章 (ミステリ・フロンティア)

ショコラティエの勲章 (ミステリ・フロンティア)

 ミステリとして売り出された叢書に、ミステリ要素もある人間ドラマとして売り出した方がよさそうな小説が入っていると、大概頭にくるのだが、この上田早夕里『ショコラティエの勲章』は腹の立つことはなかった。人間ドラマの部分が大変上質だったためである。
 老舗の和菓子店『福桜堂』に勤める絢部あかりは、ある万引き事件が契機で近隣にある人気ショコラトリー『ショコラ・ド・ルイ』のシェフ長峰と出会った。そして彼らは幾つもの身近な事件へと巻き込まれることとなる。
 人間ドラマはあまり甘ったるすぎても胃がもたれるし、ダークすぎても読後に苦い気分になるだけだが、この『ショコラティエの勲章』は甘さとほろ苦さと匙加減が抜群。それこそ『ショコラ・ド・ルイ』のチョコレートのようだ。
 六つの短篇が入っているのだが、二番目に気に入ったのが、第二話『七番目のウェーブ』(この短編集の中では、もっともミステリ度数が高いよ)で、もっとも気に入ったのが第四話『約束』(ある若き菓子職人の葛藤と成長を巡る物語で、ミステリ度数はゼロに限りなく近いよ)である。
 ミステリというより、小説としてとても良かった。上田早夕里は初めて読む作家で、第四回小松左京賞でデビューしている。他の作品も読んでみようと素直に思わせる力量があった。