FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

美しきもの見し人は/篠田真由美

 

美しきもの見し人は (カッパ・ノベルス)

美しきもの見し人は (カッパ・ノベルス)

 面白かった!
 『すべてのものをひとつの夜が待つ』に続く「さいはての館」シリーズの第二作なのだが、こちらの方がずっと良かった。
 長崎県の北西部に浮かぶ孤島、波手島。この島には修道院を模した壮麗な館があり、幾人かの女達が暮らしていた。いずれも作家、蘭堂叡人に関わりのある女達だ。蘭堂はキリスト教文学者として近代日本文学史にそこそこの名前は残したものの、現在では忘れ去られつつある。しかも……蘭堂その人はおかしな消え方をしている。彼は完全に閉ざされているはずの書斎から失踪したのだ。
 ライター兼調査員、沢崎がこの島へと足を向けたのは、一つは蘭堂の隠し子で唯一の遺産相続人を名乗る人間、青石羊子が現れたからだ。
 青石の出現を巡り、それまでも穏便とは言いづらかった島の女達の関係はさらに悪化した。蘭堂の亡き妻の妹で、彼の養女となったため館の女主人を気取る女、蘭堂を神のごとく崇める女、文学者としての蘭堂を尊敬している女、蘭堂の亡き妻への敬慕と愛情を現在も抱いている女、修道女として島の誰をも穏やかな目で見ている女、編集者を名乗る女、小生意気で軽薄そうでありながら、なんとはなしに頭の良さを感じさせる若いメイドの女……やがて殺人事件が発生する。
 物語が進むにつれ、次第に明らかになっていく蘭堂の真の姿と、彼の消失の真相は圧巻。
 おぞましさと美しさとがないまぜになった秀作。「桜井京介シリーズが今一つ肌に合わない」という読者の中にも、これはいいと感じる人間はいるはず。
 篠田真由美には「さいはての島」シリーズをもっと書き続けて欲しい。