FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

紳士たちの遊戯/ジョアン・ハリス

紳士たちの遊戯 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

紳士たちの遊戯 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 読んでいる最中は大好物を多すぎる盛り付けで出されたときのような感じだった。ただラスト間近で、それまでどうにもゆったりとした展開だったのが、どうにかピッチが上がってきたので嬉しかった。
 伝統ある男子校セント=オズワルド校。ここはチェス盤のように……いや、イギリスの国そのもののように……厳格な階級づけのなされた社会である。だがチェスのように、そして現実社会によって、頭脳の使い方によってはのし上がることができないこともない。それどころか、この世界そのものの基盤を揺るがすことさえできる。
 『ポーン』は、セント=オズワルド校の最下層(と、当人にはなんとはなしに思われた)用務員の子として生まれてきた。父親は妻に捨てられ、生徒になめられ、呑んだくれで粗暴で学のない男で、『ポーン』自身はひ弱ないじめられっ子だった。貧しく不幸な家庭環境の中で、『ポーン』は恵まれた生徒が多い、この学校に対する疼くような憧れを抱いた。だが、その憧憬はある出来事を境に激しい復讐心へと変化することとなった。
 それから時は流れたが、『ポーン』の心は変わらなかった。
 目的は、この学校を潰すこと。敵は校長ではない、セント=オズワルド校のベテランのラテン語教師で、生徒にも愛されているロイ・ストレートリー。この学校のある種の象徴で、あの事件にも関わっている彼こそが真の『キング』だ。だからまずは彼を、いや先に彼の周辺の生徒を標的にする。いまや『ポーン』はかつてのみすぼらしい、惨めな外見はしておらず、堂々と、セント=オズワルド校の門をくぐったのだから。
 やや中だるみは気になるものの、学園サスペンスとしてはなかなかのもの。穏やかな語り口の中で行われる悪意ある犯罪の描写がなんとも言えない。この作家は、名前は知っていたものの著作は読んだことはなかった。
 学園サスペンスと言えば、同じくハヤカワ文庫から出ていたキャロル・グッドマン『乙女の湖』という作品が面白かったのだが、あの作家の作品はもう訳されないのだろうか。

乙女の湖 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

乙女の湖 (ハヤカワ・ミステリ文庫)