FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

哀れなるものたち/アラスター・グレイ

哀れなるものたち (ハヤカワepiブック・プラネット)

哀れなるものたち (ハヤカワepiブック・プラネット)

 キッチュな表紙画も、作中の挿絵も、アラスター・グレイが書いてるんだ。すごい!
 耽美だとか憂愁だとかいうものに、さっぱり縁のない「ゴシック奇譚」である。古いファイルから出てきた書物、複数の差出人からの手紙、一体誰が本当のことを話しているのだろう。
 スコットランドの貧しい家庭出身の医師、マッキャンドレスは語る。彼の親友、比類もなく優秀な頭脳と、驚くほど醜い容姿の親友バクスターは死んだ女の肉体の蘇生に成功した。脳は別の人間のものなので、記憶は少しもなく、知能は幼児なみだった。
 美しい目鼻立ちと豊満な肉体、そして無垢にして従順な性質を持つ「完璧な女」の完成……と思いきや、その女ベラは天真爛漫かと思いきや抜け目なく、肉欲過多にしてその欲望を満たすための行動力をどこまでも持ち合わせた、どの男の手にも負えない女だった。やがて色事師と駆け落ち、世界を見て回る経験に恵まれたベラは、鋭利な知性を備え始める。
 エッチで破天荒な話になるのかなと思いきや、ありふれた「女性の成長と自立の物語」へとストーリーが展開していき、あれれと首を傾げてきたら、またどんでん返しが待っている。
 当方が「ゴシックロマン」に求める美しさや薄暗さには欠けているものの、これはこれで愉快な物語だった。前記の通り、書物や手紙がたくさん出てくるのもいい。虚虚実実の良作。