草祭/恒川光太郎
いつかは読みたい作家の一人だった。「なにか手頃なホラー作品を」と例のごとく考えて手に取ったのだが、手頃などという予想をはるかに上回る傑作短編集だった。土の匂いや木の匂いが漂うがごとくであり、よどんだ水や黄昏刻の空気の感じまでが描き出されており、土俗の風格が漂い、同時に人の世の汚濁もある。
「けものはら」、「屋根猩々」、「くさのゆめがたり」、「天化の宿」、「朝の朧町」の五編が収録されていて、いずれも美奥という「闇の多い」土地を舞台にした、日常と非日常が隣り合わせとなったお話である。現在を舞台にした物語もあれば、時代が昔のものがある。共通する登場人物も出て来るが、主役はやはり美奥という土地そのものなのだろう。
残酷で美しい幻想物語。自分がそののちどうなってしまうか分からなくて恐ろしいが、「天化の宿」に出てくる遊戯をしてみたいものである、傑作。