FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

見張る男/フィル・ホーガン

 とても嫌なミステリで、とても優れたサスペンスだった。後味の悪いサスペンスを描くことでは人後に落ちない、パトリシア・ハイスミスやルース・レンデルを連想させる。
 表面的にはとてもまっとうに見える男の、変わった少年の頃から変わらぬ趣味。それは興味を抱いた人間の持ち物をひそかに探り、秘密を暴き、相手のプライヴァシーをくまなく探ることだった。
 やがてその男ヘミングは成長し、小さな町で不動産仲介業を営むことになる。むろん今までに売った家の鍵はすべて手にしている。
 過去における修練(ストーカー行為の)および現在に職業に就いている彼にとって、むろん町で一目ぼれをした女性アビゲイルの家や周囲を誰にも知られずに嗅ぎ回ることは、彼にとっては造作もないことだった。
 ヘミングはアビゲイルの身辺を密かに探るだけで満足していた。だがアビゲイルが、そして彼女の関係者が実際にヘミングに接触してきたとき、破滅への車輪は動き出す。
 ヘミング自身の持つ歪みは十分に気味が悪いし、実際に生身のアビゲイルとの関係の行方についても十分歪みを感じさせる。しかし本当に「ああ、イヤミス」と思ったのは、あのラストである。ある意味ではこの事件を引き起こした張本人(ヘミング本人)が破滅するより、よっぽど嫌な結末だった。
 久しぶりに面白いサスペンス小説を読んだ。秀作。