七人目の陪審員/フランシス・ディドロ
翻訳ミステリを読んでいると、舞台が日本だというものも含めて、閉鎖的な町の息苦しさに思わず辟易するような作品がある。だけどフランスを舞台にしたものでは珍しい、と思いかけ、いやピエール・シニアックの某作品も特異な町の物語だったと考え直す。
これは法廷ミステリというより、倒叙ミステリではないだろうか。ことにリチャード・ハル『伯母殺人事件』、フランシス・アイルズ『殺意』にも似た毒気の強いユーモアが、全編に漂っている。
とりたてて強い動機もなく若い女性を殺した中年男性が陪審員として、その女性殺しの冤罪をかけられた青年を救おうとする物語である。自白さえしようとしているにも関わらず、なにかに操られるように中年男性は青年を救うことができず、中年男性も青年もともに散々な境遇に陥っていく物語である。
彼らをこの方角へと押し流していったのは、嫌な神が操る運命の糸なのか、それともなんとしても青年を有罪に、中年男性を無罪にしたい町の人々の無意識の悪意なのか。
結末も、「ああ、そっちにいってしまうのか……」というものである。
一九五八年の作品で、このところ読んだ論創社の海外ミステリでもっとも面白かった。
秀作。
- 作者: リチャード・ハル,大久保康雄
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1960/01/15
- メディア: 文庫
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- 作者: フランシス・アイルズ,大久保康雄
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1971/10/22
- メディア: 文庫
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