その女アレックス/ピエール・ルメートル
目標はそいつらでいいのか。そいつらよりもっと先に狙うべき相手がいるんじゃないか、と思っていたら、ああいうラストを迎えた。読んでいない人にはさっぱり分からないだろうが、実に読者を振り回してくれるミステリである。
誘拐犯によって攫われ、監禁された美女アレックス。犯人の目的は明確で、アレックスに強い怨恨を抱いており、彼女が衰弱して、楽ではない形で死ぬところをどうしても見たがっていた。アレックスには、犯人が誰か知っており、その理由も察している様子だが、それは読者にはなかなか明かされない。警察官たちは誘拐の加害者では被害者の正体を追うことになり、やがて、とてつもなく醜悪な真実が明るみになる。
疾走感に満ちた傑作。
ヒロイン、アレックスも実に印象に残る女性だが、警察官の四人組も魅力的。ぜひカミーユ・ヴェルーヴェン警部が登場する別の作品も翻訳して欲しい。
この『その女アレックス』自体はすでに映画化の話が進んでいるらしい。
フランスで発表された作品だが、二〇一三年にはイギリスで英国推理作家協会のCWA賞インターナショナル・ダガー賞を受賞している。
余談ながらピエール・ルメートルという名前をどこか見た覚えがあるな、と思っていたら、著者のこれまでの唯一の邦訳『死のドレスを花婿に』をすでに購入していた。